カテゴリ増やし過ぎですが(何)。

ついかっとなってy(以下略


反省はしてます。
ななもゆかも居ますが。
どう見てもこれ、カプリング話やないです。
つか別人です。
似たよなお名前とご職業をお持ちのお二人のお話です(何々)。
ただ。
極最近うっかり購入した。
某ベストアルバム@初回限定版がめさめさ良かったんで。
ついかっとなってy(二回目/えー


えーと。
期待しない方だけ、続きからどぞ。
嫌な予感した方は、全力回避推奨。














背筋が自然と伸びる。
耳に差し込んだイヤホンから響く。
五感を刺激しまくるような、甘い声。
何だろう、これは。
真似出来る筈も無く、しようとも思えない。
どんな歌を歌っても。
どんな世界を歌っても。
そこにあるのは、彼女の存在そのもの。
敵わない。
そのこと自体にまで、酔い痴れるように囚われてしまいそうで。
今更ながらに、ぞくりとした。






― Your voice. ―







それは何気なく手にした携帯音楽端末で。
少し前のデザインとシンプルな作りにちょっと気持ちをそそられて。
メイク落としの為に中座した彼女を待つ間にと、悪戯心から起動してみた。
ただそれだけだったのに。


――……あ。


初っ端から聴き覚えのあるイントロ。
自分でも確か持っていたと気付く間もなく流れてくる彼女の声。


――うっわあ……。


これは、この前発売されたベストアルバム。
六年前から始まった、彼女のシンガーとしての記録みたいな一枚。
勿論、持っている。
時期的に少しだけ先に出た自分のベストアルバムを進呈した、そのお返しに。
他ならぬ、彼女自身からプレゼントされたものだったから。


――でも……。


こんなにじっくりと、「耳の傍」で聴いたことは無かった。
普通に、オーディオスピーカーから流れてくる声だけでも結構、刺激が強かったから。


――……まずい……。


酷く焦る。
じわじわと、耳から始まって全身に広がってゆく感覚。
囚われる。
強過ぎる声。
同じ歌い手として、なんて考えられない。
どの曲も、どの世界も。
彼女の声を通して流れ出た瞬間それは。
彼女そのものになる。
声が、姿が、耳に、目に。
羨ましいとか、憧れるとかを飛び越してしまう。
だから。
出来るだけ、こんな風に耳にする事を避けていたのに。


「……奈々ちゃん?」
「ぅひゃぁっ!」


するり、と耳元に冷やりとしたものを押し当てられて、私は文字通り飛び上がる。
その拍子に、耳からイヤホンがポロリと外れ、慌てて振り返った先に。


「なぁにしてたのかなー?」


ひらひらと、私の耳元に当てていた掌を振りかざしてみせながら。
いつも通りにとても冷静な、彼女の真顔があった。




色々と言い訳めいた言葉を並べ立てた後、ようやく許して貰えた私は今、キッチンに立っている。胸のドキドキが未だに半ば収まらないでいるのは、彼女の声の世界に没入していた余波と、当の本人にその事を見咎められた事実に対する罪の意識、それから……。
ちらり、と肩越しに視線を向ける。
ソファの上、両の膝を抱えるようにして座り込んでいる彼女はいつにも増してぼんやりとして見える。髪を後ろで纏め上げているから、彼女の特徴のある大きな耳が丸見えで、そこにはさっきまで私が勝手に耳に突っ込んでいたイヤホンが差し込まれていて。


――……何、聴いてるんだろう。


ただじっと動かない彼女の前で、それでも音楽端末はプレイ中を示す灯りを明滅させている。
私からそれを取上げた後、彼女はその本体をつまみ上げ、ディスプレイを一睨みしてから呆れたような顔になった。それから、つまらなさそうな表情で「なんか温かいもの飲みたくない?」とか呟きながら隣にぼすん、と腰を下ろしたのだ。だから私は、「紅茶で良いですか」なんて言いながらソファから腰を上げた。
その瞬間の彼女の顔は見ていない。
というか、とても、見られなかった。
今は、微動だにしない彼女の横顔をこっそり盗み見しながら息をついている。そんな自分に凹みながら、沸かし直したお湯をポットとカップに注ぐ。
気難しくてマイペースな彼女の住まいにこんな時間にお邪魔させて貰えている。その既成事実に甘え過ぎていたのかな。そんな事にまで考えが及んで少し自己嫌悪。
花の香りのするお茶は、前にお邪魔した時に私が持参したものだった。その日以来、殆ど中身が減っていないことに更に凹みながら、ポットのお湯を捨てる。ティースプーンで二人分プラスアルファなお茶っ葉を計りながら、温もりを確かめるように空いた掌ポットにそっと触れてみた。


彼女の声は彼女そのものだ、と思った。
強くて綺麗で、脆くて切ない。
手で触れられそうに確かなのに、気を抜くとするりすり抜けていく。
その癖、心の中に消えない何かを確りと残して行ってしまうのだ。
それが彼女の意志によるものなのか、それとも無意識のものなのか。
分からないから、惹かれて、分からないから、不安になる。
対して、自分の声は……と考えてみた。
やっぱりきっと、自分そのものなのだろう、と思う。
考えに考え抜いて、掴みたい捉えたい近づきたいその形を求めて。
迷ったり悩んだり、その繰り返しばかりで。
力押しな所があるかと思えば、妙に不安定な所もあって。
最後はホント、勢いと根性とノリで乗り切ってしまったりして。


――……駄目だなあ……。


凹むよりも諦念に近い気分に苛まれつつ、沸かし立てのお湯をポットに注ぎ入れて、ふわり香りたつ湯気を蓋で塞いで、これまた以前持ち込んだティーコゼーを被せる。彼女に喜んで欲しくて選んだ、白と黒のうさぎがあしらわれたデザインのキルト製。可愛いね、と無邪気に喜んでくれたことが素直に嬉しかった。


――ホント、駄目だ。


耳の奥から、さっきまで聴いていた彼女の歌声が立ち上る。
何度か観たステージでの彼女の姿が、脳裏に浮かび上がる。


――凄く、悔しい。


気付くと、情けなくて涙が出そうになった。
慌てて首を軽く振って、落ち込んだ気分を振り払う。
妙な所で鋭い彼女に、気を使わせたりはしたくない。
二つ並んだカップのお湯を交互に捨て、ポットと一緒にトレイに載せた。


「お茶、入りましたよー」


努めて明るい声を出して宣言しながら、トレイを手に、彼女の元へと戻る。
イヤホンを耳に差し込んでぼんやりと視線を泳がせていた筈の彼女は、さっき見た時よりも少し真剣そうな表情になっていて、少し驚いた。


「……ゆかりさん?」


何を聴いているのか分からないけれども、少し張り詰めて見える横顔に、それ以上声は掛けられない気分になって、私は大人しくテーブルにトレイを置いた。そのまま、彼女の邪魔にならないよう、細心の注意を払ってカップに夕焼け色のお茶を注ぐ。途端にあたりには甘酸っぱい花とフルーツの香りが漂い始める。彼女と自分の前にそれぞれのカップを置いて、その間に、これも以前持参した蜂蜜の小瓶とスプーンを添える。


「ええと、冷めちゃいます、よ?」


控え目にもう一度だけ声を掛けると、うーん、と気の無い返事だけが返ってきた。
何だか悔しさが倍増しになりそうだったから、それ以上は止めにして、自分の分のカップに手を伸ばし、ついでみたいに、テーブルの上に投げ出された音楽端末のディスプレイを見るとも無く見てしまった私は、次の瞬間、固まってしまった。


「……ゆ、ゆかりさん……?」
「うーん?」


シブい顔して振り返りもせず、彼女は再び気の無い唸り声を上げる。その様を眺めている自分の耳が、段々と熱を帯びる。


「あの、何、聴いてらっしゃるんですか?」
「んー? 奈々ちゃんの」


あっさりと返ってきた言葉に、頬まで熱くなる。


「ちょ……私の、て……っ?!」
「なんかねー、悔しくてねー」


――……はい?


固まったままの私に細めた目をちらりと向けて、彼女はいつもの調子で続けた。


「奈々ちゃん、かっこいいじゃん。でもって、すっごい進歩してるよねー。ベストとか聴くとホント良く分かるよねー。あ、こいつ、頑張ってるって。もう、全然、はっきり分かっちゃう」
「え? あの、ええと、ゆかりさん?」
「あ、でも別に、羨ましいとかはないんだけど」


あっさりそんな風に言ってのけると、彼女は音楽端末を停止させ、イヤホンを耳から抜き取った。


「でもさー、こうして自分のと聴き比べるとさー、なんかこう、悔しくて」
「き、聴き比べ……っ?!」
「あれ? 奈々ちゃんしない? ゆかり時々するよー、折角だから」


くるくると本体に巻き付けるようにしてイヤホンコードをまとめると、何事も無かったような顔して、わー花のお茶だー、なんて言ってる。その横顔は先程までとは打って変わって可愛くて、危うく誤魔化されそうになった意識を私は必死で引き戻した。


「折角って、ゆかりさん、何言って」
「あ、蜂蜜だー、アカシアだー」


機嫌良く無邪気に弾む声に、私の言葉は遮られる。それさえ多分、無意識なのだ。
だからこそ、困る。困るのだけれども。


「でも、イヤホンってあんまり良くないんだよね。ただでさえ頭痛いし、相変らず回ってるし」
「え、また具合悪いんですか?」


思わず聞き返してしまって軽く後悔。睨まれた。


「んー。奈々ちゃん、ホント、心配性だからなー」
「あ、えっと、ゴメンなさい……」
「何で謝るかな」


今度は苦笑い。


「だから、時々って言ってるじゃん。それにそんなにしょっちゅう、耳元で聴いてたら大変だよ。目眩とか頭痛だけじゃなくってほら、胸の中とか」
「……はい?」
「さっき言ったとおり、」


何だか良く意味の分からない言葉が刺し挟まっていた気がして再び聞き返してしまったら、彼女はカップの中身をそっと一口飲んだ後、涼しげに微笑んだ。


「かっこ良いのも頑張ってるのも滅茶苦茶伝わってくるからさ。大変になるって言ってるの。頭もここも」


そう言って彼女は空いた方の手をそっと宛がった……何故か、私の胸に。


「ゆっ、ゆかり、さんっ!」
「真似なんか出来ないし、するつもりもないけどさー。なんか悔しいんだよね。奈々ちゃんの声」


うりゃ、とそのままその掌で私の胸を思い切り押しやるように突き放して、彼女は笑った。


「このやろーって思う。これって、あれかな、好きってことかな?」
「好……っ!」
「奈々ちゃんは?」


散々に、人のこと、振り回した後で彼女は。
不意に、真顔に、なった。
ほんとは私よりも少し高いところにある筈の視線が、下から見上げてくる。
押しやられて出来た距離の分、彼女が身を乗り出している。
私の顔にまた、言い様のない熱が集まり始める。


「――奈々ちゃんは、どんな感じなのかな?」


ここ、と、またその手が私の胸元に伸びる。
触れる掌に、伝わっていないのかな。
こんなにも、激しく鳴り響いているのに、私の鼓動。
綺麗で強くて、脆くて切ない。
抱き締めて、守りたい、なのに。
そう思う度、あっさりと身を翻して笑顔で遠ざかってしまう。
追いつけない早さで。
それでも、近づきたいとか追い掛けたいとか。
ずっと見ていたい、聴いていたいって気持ちばかりが高まっていく。
それに一体、どんな言葉を与えれば、この人には、伝わるのだろう。


「……と……」
「……と?」
「とっても、悔しい、です……っ」


真赤になっている顔を、それでも逸らさずに真っ直ぐに。
挑むように、彼女に向けたまま。
やっとの事で口に出来たのはそれだけだった。
けれど。


「……なあんだつまんない、」
「あ、え?」


あっさりと、そして不満げに、彼女は言い放ち。
私は、動揺するしか無かった。


「がっかりしたから、今夜の晩御飯は奈々ちゃんが当番ねー」
「え? え? な、何でっ?!」
「がっかりだよーもーばつとーばーんっ」


歌うように繰り返しながら彼女は、ソファに沈み込むように座り直した。


「えと、あの、ゆ、ゆかりさん?」
「ついでに明日あたしオフだからー。奈々ちゃんこのままお泊まりねー。けってーいっ」
「決定って、ちょっ、あの、私、明日朝からお仕事なんですけど……!」
「いいじゃん、始発で帰れば間に合うでしょ」
「あ、あのー、ゆかりさん……?」


もしかしなくてもご立腹モードらしい彼女はあくまで真顔でお茶を飲み干すと、さーてーとーおー風ー呂ー、なんて、再び歌うように繰り返しつつ立ち上がり、さっさと行ってしまった。


――……どこまで、本気かな。


でもたとえ、それが単なる思いつきであっても。
口に出した限りは全部、その時々の本気。
それが、彼女という人の筈で。
そう思うと脱力するしかなくて、先程の彼女と同じように、私はソファに沈み込むしかなかった。
胸の動悸も、頬の火照りも、胸に感じた彼女の繊細な掌の感触も。
耳の奥にしみこむような彼女の声たちと同じく、どうやっても消えないし治まらないし振り払えそうにもないから、溜息でそっと、その熱だけを追い出してみる。


うん、そうだ。
私だって、多分、どこまでも本気。
だから。
負けたくないとか悔しいとかだけじゃなくて。


――頑張ります。


そう思った途端に、気付いてしまった。


「……そっか」


頑張っている私をカッコいいって、好きだって言ってくれた彼女を。
私も、悔しいけど好きだって、胸を張って言って良かったのかもしれない。
その事に。


「なあんだ……」


思わず呟いたら、治まりかけていた熱や火照りがまたぶり返して。
お風呂から上がった彼女からおなかが空いたコールを連発されて。
更に更に凹んだのは、ここだけの話。








― 了 ―










出来心です(何)。
お見逃し下さいませ(何々)。
つか、おっかしいなあ……。
もっと甘いお話になる筈だったのnげふがふっ。
いやしかしホント。
半生ってある意味。
オリジナルですよねー某Mさnがふごふっ(何々々)。