七並び記念と言ふよりは。

物凄く、個人的動機にて。
設定上は、未だかつて無い程、甘いです。
けどでも。


続きから、どぞ。
ただ、あんまし無防備なのもどうかと思い。
久々、半纏……もとい、反転仕様で御座いましたり(えー)。


あ、いつもの注意書きを忘れてました。
良く似たお名前とかお仕事の方が実在しますですが。
全くの無関係です。
あくまで良く似たお名前とお仕事を持つ。
全然別人のお話ですので、其処の所、何卒よしなに(平伏)。







止まらない。
止まれない。
一日が終って。
逸る気持ちを抑えて。
タクシーのシートに沈めた身体が今にも駆け出しそうで。
何が切っ掛けか何て、考えたくない程に。
今は只、あなたに逢いたくて。




Our sadness and painfulness



チャイムを鳴らして、魚眼レンズの向こうが少し暗くなるのを眺めながら。
頭の片隅、何かがカウントダウンを始めるのをぼんやりと感じて。
ゆっくりと開かれる重たい扉の向こう、ほんの少し身を屈めた彼女がそっと上目遣いで見上げてくるのを確認するのと同時に踏み込んだ。


「……っ!」


何か言い掛けた言葉を吐息ごと奪って。
胸元を、握り締めた拳が打ち付けるのも構わずに。
ほっそりとした背中に両腕を回して、精一杯、抱き締める。
身じろぎした彼女の首筋をなぞって形の良い頭の後ろに回した右の掌を、ゆっくりと上下する。
唇に感じる温かさに、泣きたくなる。


「……ちょっと、まって」


名残を惜しみながら解放した、その次の瞬間、彼女は大きく息を吐きながら声を漏らす。苦しげに伏せられた顔からは、表情が読み取れない。


「……ごめん、なさい」


反射的に謝った瞬間、彼女が顔を上げた。


「謝んな」


顰められた眉と、引き結ばれる唇。
ああ、また、間違えた。


「……大好きです」


正解なんて知らない。
だから、精一杯、気持ちを言葉に乗せてぶつけたら、彼女は困ったように眉根を下げた。


「ななちゃん、いきなり過ぎ」


ご尤もな言葉に、項垂れる。
自分でも掴みかねる感情をただぶつけるだけの行為だったと気付けば、こめかみがきんと冴える。


「……大丈夫、だよ?」


冷え切ったその場所に、彼女の掌が触れる。
目を上げれば、ふにゃり、と柔らかい彼女の笑顔。
ゆっくりと、その手が首の後ろに回されて、引き寄せられる。


「……ゆかりさん」
「うん」
「大好きです」


知ってる。
小さな声が、耳元を揺らした。


「誰にも、渡したくないんです」


うん、って頷く動きが肩先に触れる。


「ゆかりさんにとっての、特別で居たいんです」


うんうん、って彼女の額が、鎖骨の辺りに押し付けられる。
華奢な身体に回した腕に力を籠める。
壊してしまいそうで怖くて、でも手離せなくて。


「ごめんなさい……」
「……もう……」


困らせるのを分かっていて、でも。
ああ。
何処までも、自分本位で。
我侭で、泣きたくなる。


「……ななちゃん?」
「……はい」


ぺし、と、痛くない強さで彼女の掌が頬を打つ。


「謝らないで」
「……はい」
「ゆかりのこと、好き?」
「はい」
「だったら、それだけで良いじゃん」


背中に回された細い腕に、引き寄せられる。


「ゆかりは、ゆかりの事好きでいてくれるななちゃんのこと、好き」


ぎゅっと、引き寄せられる力に、胸が痛いほど、震えた。


「ありがと、ね」
「……っ!」


苦しくて、切なくて、幸せで。
言葉に出来なくて、縋りついた。
誰かに奪われる、その可能性に怯える気持ちが消えた訳じゃない、けどでも。
今は、今だけは、彼女はこの腕の中にいる事を選んでくれる。
その事が、堪らなく幸せで、切なくて、苦しかった。


願わくば。
この切なさが、苦しさが、幸せが。
出来得る限り、続きますように。
ただそれだけを願って。
私は、腕の中の彼女を、力いっぱい、抱き締めた。















幸せで、ありますように。
笑顔でありますように。
ひたすら、それだけを祈るように、願いつつ。