『海を見に行く。〜晩夏。〜』

己的お姉さまが昨日。
ご自身のサイトのトップに。
何とも素敵な絵を描いてUPなされていましたのですが。
先ほど、Blogを拝見して吃驚。
己の小話を元に、描がかれたとの事。
嬉しくて言葉も御座いませんです。
己の小話の為に……では無く、もう一つの独立した。
海を見に行く佐藤聖久保栞が、其処に在る事。
その世界の成立を、己の小話が触発したと言ふ事が。
上手く申せませんですが、嬉しかったり。
原作世界の可能性の広がりを、その背景の広さを。
物語の豊かさを、分かち合えた、そんな想いを。
勝手に抱いた、胡乱な己をどうかお許し下さいませ(平伏)。


さて。
ご紹介に預かりました、己的小話ですが。
Web拍手の御礼頁一番上に仕込んでは御座いますですが。
探し難い向きも御座いましょうから。
此れを機に、こちらにも転載させて頂きますです。
つーか己が読み直すのにこっちの方が便rげふがふごふ。


ええと。
だもんで、先日来、こっちへの転載を考えていたのですね。
良い機を得たと言ふ事で、UPさせて頂きますです。


そりでは。
もしもお読みいただけますのならば。
続きから、どぞどぞ。















海を見に行こうと言い出したのは。

多分、私では無かった筈。











― 海を見に行く。〜晩夏〜 ―

 











泳ぐには日暮れ時の風が随分と硬質に感じられる程に。

夏は盛りを過ぎてしまっていたから。

浜辺にも人はまばらで、だから。





「……遅くなったら、心配されない?」





風の中、そっと掛けた声は届かなかったのか。

彼女は、長い髪をその背中に躍らせながら歩く足を緩めない。



寧ろ、日が暮れ切れば、心配をされるのは自分の方だと思い至り。

苦笑を通り越して乾ききった笑みが口元に浮ぶのを自覚する。



制服姿の彼女は、いつの間にやら靴も靴下もその手に持って。

ただひたすら、砂に沈むその感触を愛惜しむような眼差しを。

足元へと向けて、黙々と歩いている。

その面には、いつもと同じ、穏かな、無表情。





「夏には、海に行ったわ」





風に紛れるようなか細い声が、それでも確かに耳に届いた。





「父と母が、砂浜で私を待っていてくれた」





振り返らないその眼差しが、静かに、細められる。





「幸せだった」





でも。

その口元にも頬にも、笑顔らしいものは無くて。

でも。

その眼差しが湛える光は、とても、幸福そうな色を帯びていて。



どうすれば。

そんな風に全てを受け入れて。

あるがままに受け留めて。

密やかに、存在できるのだろうかと。





「………聖?」





思うよりも早く、言葉も無く。

伸ばした右手の中に、彼女の左手を納める。





「……遅くなるから」





零した声が余りにも言い訳がましい響きを帯びていた事に。

どうしようもない嫌悪を覚える心に、更に嫌悪を重ねて。

噴出しそうな感情から目を逸らす為に、彼女の手を強く引いた。





「そうね、帰りましょう」





やっと振り返った、彼女の瞳に口元に頬に。

澄んだ笑顔を目にした瞬間、この胸に満ちるのは。

安堵でも平穏でもなく、罪悪感じみた重苦しさ。





「ありがとう、つれてきてくれて」





ああ、そうだ。

海を見たいと言ったのは。

彼女の方だった。









―  了  ―












061120.イラストブックの、あの一枚を思い浮かべつつ。

佐藤聖久保栞が、過ごしたかもしれない夏の海に。



己的お姉さまに、心から、感謝をこめて……(平伏)。